代表的な酸・塩基の定義にはアレニウスの定義,ブレンステッド・ローリーの定義,そしてルイスの定義があります.
この中でもルイスの定義はプロトンH+が関わらないため難しく感じる人も多いのではないでしょうか.
そこでこの記事ではルイスの酸塩基の定義とその例を紹介します.
ルイスの酸塩基の定義
ルイスの酸塩基の定義は次のとおりになっています.
ルイス酸:電子対受容体この定義により,プロトン性溶媒の有無にかかわらず酸と塩基を定義することができます.
ルイス塩基:電子対供与体
そのため,ブレンステッドの定義よりも広範囲の物質をルイス酸・塩基として分類することができ,錯体の形成などにも適用できます.
また,ルイス酸・ルイス塩基という用語は求電子剤,求核剤という用語と大きく関連しています.
ルイス酸・ルイス塩基という用語は酸塩基反応の熱力学的な性質を論ずるときに用いられます.
それに対して,速度論的な性質を論じるときには電子対受容体(ルイス酸)を求電子剤,電子対供与体(ルイス塩基)を求核剤とそれぞれ呼びます.
熱力学的観点
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速度論的観点
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電子対受容体
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ルイス酸
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求電子剤
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電子対供与体
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ルイス塩基
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求核剤
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ルイス酸・塩基の反応
この結合は,分子軌道の観点から説明することができます.
つまり,ルイス酸は空の軌道を提供し,ルイス塩基は完全に詰まった軌道を提供することでルイス酸・ルイス塩基間に新しい結合が形成されるということです.
このように,新しく形成された分子軌道には塩基からの2電子が結合性軌道に収容され,反結合性軌道は空となります.
これにより全体としてエネルギーが低減するため,新たな結合が形成される反応が進行します.
ルイス酸とルイス塩基の反応は上述の錯形成反応のほかに,置換反応,副分解反応があります.
置換反応は,ルイス錯体中の酸が別のルイス酸で置き換えられる反応やルイス錯体中の塩基が別のルイス塩基で置き換えられる反応のことです.
副分解反応はルイス錯体がもう一つのルイス錯体により二重置換される反応のことで,
A-B + A’-B’ → A-B’ + A’-B
のようにあらわされる反応を言います.
ルイス酸・ルイス塩基の例と特徴
一方で,電子対を受容する化学種であるルイス酸は次の4つが考えられます.
- 不完全なオクテットを持つ化学種
- 金属カチオン
- 完全なオクテットを持つが,価電子の配置を変えることで電子対を受け入れることができる化学種
- 原子価殻を拡張することで電子対を受け入れることができる化学種
これらを一つずつ見ていくことにしましょう.
不完全なオクテットを持つ化学種
この化学種の例にはハロゲン化ホウ素BX3やハロゲン化アルミニウムAlX3があります.
これらはNH3などの電子対供与体の孤立電子対を受け入れることができます.
塩化アルミニウムAlCl3はフリーデルクラフツアルキル化やアシル化などの有機反応のルイス酸触媒としてよく用いられます.
金属カチオン
金属のカチオンは塩基の孤立電子対を受け入れて配位化合物を作ります.遷移金属と種々の配位子によってつくられる錯体はこの代表例です.
例えば,Co3+は6つのアンモニアの孤立電子対を受容し,錯体[Co(NH3)6]3+を作り出します.
また,アルカリ金属イオンは水中で水和した状態で存在しますが,これはアルカリ金属イオンがルイス酸となり,ルイス塩基の役割を果たす水H2Oの孤立電子対を受け入れることによって生じているといえるでしょう.
完全なオクテットを持つが,価電子の配置を変えることで電子対を受け入れることができる化学種
完全なオクテットを持つ化合物であっても,価電子の配置を変えることでオクテットを満たしたまま塩基の孤立電子対を受け入れることができる場合があります.例えば,CO2はそのままの状態でもオクテットを満たしています.
しかし,価電子の配置を変えることで次のようにOH-の電子対を受け入れることができます.
そのほかの例は二酸化硫黄や三酸化硫黄などの硫黄酸化物です.
三酸化硫黄は強いルイス酸であり,ルイス塩基である水と激しく反応し,硫酸を生じる反応が起こります.
一方で二酸化硫黄はルイス酸としての働きもありますが,孤立電子対を持つためルイス塩基でもあるといえます.
原子価殻を拡張することで電子対を受け入れることができる化学種
ルイス酸の中には,原子価殻を拡張することで塩基の電子対を受け入れることができる化学種もあります.pブロック元素の中で重いほうの元素のハロゲン化物,例えばSiX4,AsX3,PX5などが代表例です.
例えば五フッ化リンPF5は強いルイス酸で,エーテルやアミンと錯体を作ります.
このように14族の炭素以外の元素や15族の重い元素は超原子価を示し,ルイス酸として働きます.
まとめ
- ルイスの酸塩基の定義はブレンステッドの定義よりも広範囲に適用でき,プロトン性溶媒の有無にかかわらない.
- 電子対受容体をルイス酸,電子対供与体をルイス塩基と定義する.
- ルイス酸,ルイス塩基は熱力学的性質についての用語であり,速度論的な観点からは求電子剤,求核剤とそれぞれ呼ばれる
- ルイス酸とルイス塩基の反応の代表は錯体の形成
- ルイス塩基となる化学種は孤立電子対を持つもの
- ルイス酸は大きく分けて4種類に分類できる.
ルイスの定義はブレンステッドの定義と異なる印象がありますが,錯体などにも重要な概念です.
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